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袋小路を散歩する

ミーハーなおたくの記録、ときどき映画案内

ビフォア・ザ・レイン(1994年)

ミルチョ・マンチェフスキ監督/マケドニア,フランス,イギリス製作

奇妙に循環する時系列で描かれるマケドニアの実相

ビフォア・ザ・レイン [DVD]

「言葉」「顔」「写真」の3話オムニバス形式で綴られる物語。この映画を”異国情緒漂うなんとなく映像がきれいな映画”で終わらせないためには、バルカン半島(マケドニア)の近・現代史および民族主義について知る必要がある。

マケドニア地方は長い間オスマン帝国に支配されていたが、1913年の第2次バルカン戦争の結果、隣接するギリシア・セルビアブルガリアによって3分割される。また第2次世界大戦中の1941年には大部分がブルガリアに併合、残りの一部はドイツ・イタリアに占領され、戦後はユーゴスラビア連邦に組み入れられた。こうして周辺諸国に翻弄されてきたマケドニアが国家として独立するのは1991年のことである。

時を戻して18世紀、フランス革命を発端にヨーロッパで発生したナショナリズムが多民族の混住するバルカン半島へ伝わると、他の民族や少数民族を排除し「民族国家」の建設を目指す「民族主義」となり、これにより数々の紛争が引き起こされた。

マケドニア共和国の領土には主に70%のマケドニア人(正教徒)と30%のアルバニア人(ムスリム)が混住しており、彼らは何百年もの間ゆるい共存関係にあった。しかしマケドニアが独立の際に制定した憲法には「マケドニアマケドニア民族による国民国家」とあり、また議会でのアルバニア語の使用禁止にアルバニア人たちは不満を募らせていた。隣接するコソヴォでは19世紀後半からアルバニア人が民族独立を叫んでセルビア人と紛争を続けており、本国アルバニアでも経済不振により政治は不安定な状態であった。

このような状況下のマケドニアを舞台に描かれたのがこの作品である。”Before the Rain” 雨が示唆するのは民族浄化による血の雨なのか。この映画が製作された後の2001年、マケドニア政府はアルバニア人の権利拡大を要求するアルバニア武装勢力の掃討に着手した。この映画の奇妙に循環する時系列は、バルカン半島で今も続く憎悪の連鎖を暗示しているのかもしれない。