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袋小路を散歩する

ミーハーなおたくの記録、ときどき映画案内

ノー・マンズ・ランド(2001年)

ダニス・タノヴィッチ監督/フランス,イタリア,ベルギー,イギリス,スロベニア製作 

ボスニア出身の監督が描く極限状態の喜劇!秀逸な反戦映画

ノー・マンズ・ランド Blu-ray

「No Man’s Land」とは、戦時中における敵味方の前線に挟まれた、膠着状態が続く地帯のこと。基本的にこの中間地帯は無人でなければならない。そのノー・マンズ・ランドがこの映画の舞台である。ボスニア内戦の真っ最中、敵対するボスニア兵とセルビア兵がノー・マンズ・ランドにある塹壕に取り残されてしまう。物語のほとんどはこの塹壕の中で展開していく。

さて、ボスニア内戦とは、ユーゴスラビアからの独立に賛成するムスリム人およびクロアチア人(ここでは便宜上ボスニア人ボスニア兵と表記する)と、それに反対する在ボスニアセルビア人との間で始まった紛争である。ボスニア地域には少なくとも15世紀後半からイスラム教徒のムスリム人、カトリック教徒のクロアチア人東方正教セルビア人がそれぞれ定住しており、長い時間をかけて彼らの居住区域は複雑に入り組んでいった。従ってこの内戦では、隣近所の顔見知り同士で殺戮し合うという悲劇が起こったのである。「相手を殺さなければ自分が殺されてしまう」という緊張状態の中、互いへの憎悪はどんどん大きくなっていった。

映画では前述のボスニア兵とセルビア兵がこの憎しみをぶつけ合うのだが、彼らのやりとりはどこかコメディじみていて、脚本の妙を感じさせる。悲劇が極まると喜劇となってしまうのかもしれない。加えて、衝撃映像をスクープしようと戦場にやってくるアメリカ人のマスコミ記者や、右往左往するのみの国連軍が可笑し味に拍車をかける。

派手で大掛かりな爆発シーンや必要以上に情に訴えかける演出はない。しかし、実際にボスニア軍のカメラマンとして戦場へ同行していたタノヴィッチ監督だからこそ描けた世界、秀逸な反戦映画である。ぜひ一度ご覧いただきたい。